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大谷翔平をどう抑えるか:NLDS苦戦の後、ブリュワーズが描く設計図

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大谷翔平をどう封じるか:NLDS苦戦後、ブリュワーズが描く設計図

“そのような出来ではワールドシリーズは獲れない”とロバーツ監督が警鐘を鳴らす

NLCSは月曜夜に開幕し、ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)とミルウォーキー・ブリュワーズ(Milwaukee Brewers)が、今年のワールドシリーズでナ・リーグを代表するチームの座をかけて7戦制で争う。ドジャースはシンシナティ・レッズとフィラデルフィア・フィリーズを破ってこの舞台に至り、ブリュワーズはシカゴ・カブスを下して勝ち上がってきた。

このシリーズでブリュワーズが直面する最大のチャレンジの一つが、二刀流スーパースター 大谷翔平 (Shohei Ohtani) を抑えることだ。これは容易な仕事ではない。シーズンを通して大谷は打率 .282/出塁率 .392/長打率 .622(OPS+=179)、本塁打 55、打点 102、盗塁 20 をマークし、DH と先頭打者という役割を果たしながら、打者としての貢献だけでも「ベースライン以上選手換算勝利 (Wins Above Replacement)」で 6.6 を記録していた。

しかしながら、驚くほどの活躍を見せたその大谷も、フィリーズとの NLDS(ナ・リーグ地区シリーズ)ではほとんど存在感を示せなかった。4試合通算で 18打数 1安打、9三振、長打なし。与えられた四球はたった2つ(そのうち一つは敬遠)という内容だった。フィリーズはドジャースをシリーズ敗退には追い込めなかったが、大谷を抑え込む戦いには勝利したと見ていい。

では、フィリーズはどうやってそれを成し遂げたのか。ブリュワーズはそのアプローチを真似できるのか。本稿ではその分析を試みる。

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1. 結果は “得られたもの” か

NLDSでの不振をただの不運と見るべきではない

長年分析を重ねてきた者として強調したいのは、「記述統計 (descriptive statistic)」と「予測統計 (predictive statistic)」を明確に区別すべきだという点である。NLDS における大谷の打撃成績は前者、すなわち「起こったこと」を示す数字であって、それだけでは将来を断定する材料には不十分だ。しかしながら、複数の指標がその不振を“偶発”ではなく“内容的な弱さ”として示している。

以下が NLDS とレギュラーシーズン時の比較である:

指標NLDSレギュラーシーズン
Whiff(空振り)率39.4 %33.4 %
平均打球速度 (exit velocity)92.2 mph(約 148.4 km/h)94.9 mph(約 152.6 km/h)
打球の打ち上げ角度 10〜30度 の比率0 %31.2 %
xwOBA(予想打撃成績).100/.190/.181

NLDS では空振り率が大幅に悪化し、理想的な打ち上げ角度での打球はまったく出ず、予想打撃成績 (xwOBA) も .100/.190/.181 と極めて低迷した。これらの指標は、単なる不運では説明しきれない、打撃内容そのものの停滞を示している。

また、NLDS でも大谷は打球自体を力強く打ち返す場面はあったが、シーズン平均には届いておらず、地面に叩きつけるような打球、または鋭角にすくい打つような打球が目立った。レギュラーシーズン中は、31%を超える打球が 10〜30 度に打ち上げられており、それが最も効果的な角度帯とされるが、NLDS ではひとつも該当しなかった。

このような数値傾向を踏まえると、NLDS での成績は「たまたま打てなかった」ではなく、「内容的に崩れた」時期であったと評価すべきだ。

2. フィリーズはどうピッチングしたか?

低め集中、内角攻め、左腕起用──その構図を探る

NLDS でフィリーズが大谷に対して取った戦略には明確な傾向がある。

まず、ゾーン下段への投球比率を大きく上げたこと。レギュラーシーズンでは対大谷投球のうち 59.5 % が下段だったが、NLDS ではその割合が 74.6 % まで跳ね上がった。また、内角攻めも強化され、100球あたりで見れば通常より約7球多く内角に投じられていた。

さらに、対大谷戦においてフィリーズは左腕投手を徹底して投入し、プラトーン(左右の打者有利不利)面で優位を得ようとした。20 打席中 16 打席を左腕と対戦し、残りもクローザーのジョアン・デュラン (Jhoan Duran) を含め、逆スプリット傾向を持つ左腕を使う構成が見られた。

では、それら左腕投手はどのような球種で攻めたか。クリストファー・サンチェス (Cristopher Sánchez)、ヘスス・ルザルド (Jesús Luzardo)、マット・ストラム (Matt Strahm)、タナー・バンクス (Tanner Banks) といった投手たちは、左打者相手にシンカーとスライダー(またはスイーパー)を主要球種として使う傾向がある。特に多くが、下・内寄りというゾーンにシンカーを集め、そのゾーンでの優位を最大化しようとした。

この戦略がデータと実践の両面で効果を示したことは、フィリーズの抑え込み成功を裏付けるものである。

フィリーズ左腕投手陣の対左打者用球種構成

投手主な球種(対左打者)第2球種(対左打者)
クリストファー・サンチェス (Cristopher Sánchez)シンカースライダー
ヘスス・ルザルド (Jesús Luzardo)スイーパーシンカー
マット・ストラム (Matt Strahm)スライダーシンカー
タナー・バンクス (Tanner Banks)スイーパーシンカー

3. ブリュワーズは同じ設計を写せるか?

左腕シンカー投手を軸に置いた抑制構想

ブリュワーズには、左打者相手に 50 % 超の割合でシンカーを投げられる左腕投手が複数存在する点で、フィリーズ型戦術を再現する素地がある。具体的には、ジャレッド・コイニグ (Jared Koenig)、アーロン・アシュビー (Aaron Ashby)、ホセ・キンタナ (Jose Quintana) がその候補だ。また、ロバーツ監督は次のようにも述べている:

“Whatever opponent we’re going to face, they’re going to put as many lefties on Shohei, but we’re hoping that he can do a little self-reflecting … how aggressive he was outside of the strike zone and passive in the zone.”

言い換えれば、相手が大谷に対して左腕を重ねてくることはほぼ確定として、そのなかで大谷自身が外角で過度に攻めすぎた点、ゾーン内で消極になった点を見つめ直し、修正できるかどうかが鍵になる。

ただし、完全な模倣=成功を保証するわけではない。前述したように、NLDS 成績は記述統計に過ぎず、プレーヤー自身の調整によって結果は大きく変わる可能性がある。事実、大谷自身はこの NLDS で例年よりアグレッシブになりすぎ、タイミングを崩した部分もあるという見方もできる。

最終的には、NLCS で大谷が通常状態を取り戻すか、それともブリュワーズが彼を封じ切るか。その勝負の行方こそが、どちらのチームがワールドシリーズに進むかを左右するだろう。

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