ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)の大谷翔平(Shohei Ohtani)が、ついにポストシーズンのマウンドに立った。現地土曜夜(※アメリカ時間)、シチズンズバンク・パークで行われたナショナルリーグ地区シリーズ(NLDS)第1戦にて、大谷はメジャーリーグのプレーオフ初登板を果たした。
試合はドジャースが5対3でフィラデルフィア・フィリーズ(Philadelphia Phillies)に勝利。大谷は6回3失点、被安打5、奪三振9、与四球1の内容だった。
スコア以上に光る投球内容であり、特に奪三振能力の高さを印象づけた登板だった。
2回に崩れたが、それ以外は支配的な内容
この試合の大谷の登板内容は、まさに“ワン・バッド・イニング(One Bad Inning)”という表現がふさわしい。つまり、一つのイニングでの失点を除けば安定していたということだ。
第2回、アレック・ボーム(Alec Bohm)への四球とブランドン・マーシュ(Brandon Marsh)のシングルでランナーをため、迎えた打者はJ.T.リアルミュート(J.T. Realmuto)。彼の放った打球は右中間を破る2点三塁打となり、フィリーズが先制に成功する。
しかし、このプレーには守備のミスも絡んでいた。
ドジャースのテオスカー・ヘルナンデス(Teoscar Hernández)は平均以下の守備力と評されているが、この場面でも中継プレーでの対応が拙く、打球処理に失敗。結果的に、リアルミュートが三塁へ到達することを許してしまった。
さらにその後、ハリソン・ベイダー (Harrison Bader) の犠牲フライによりリアルミュートが生還。
これにより、このイニングでドジャースは3失点を喫した。
打席では4打数無安打
一方、大谷は打撃面では振るわなかった。この試合での成績は4打数0安打と、ヒットは出ず。プレーオフ初登板ということで、投手としての集中が強かったのかもしれないが、二刀流選手としては少し悔しい内容となった。
大谷翔平の登板成績(NLDS第1戦)
回 | 被安打 | 奪三振 | 与四球 | 失点 | 自責点 |
---|---|---|---|---|---|
6 | 5 | 9 | 1 | 3 | 3 |
- 試合結果:ドジャース 5 – 3 フィリーズ
- 投球内容:全体的に支配的だったが、第2回の乱れが響いた
- 被安打の多くは単発で、大量失点には至らず
- スタッツ面ではポストシーズンでも通用する内容といえる
REAL-LY CLUTCH! pic.twitter.com/MNrSWIPfo6
— Philadelphia Phillies (@Phillies) October 4, 2025
2回以降は別人、大谷のスプリッターがフィリーズ打線を翻弄
2回表の苦しみを乗り越えた後、大谷翔平(Shohei Ohtani)はまさに支配的な投球を披露した。
この回、アレック・ボーム(Alec Bohm)、ブランドン・マーシュ(Brandon Marsh)、J.T.リアルミュート(J.T. Realmuto)が立て続けに出塁し、先制点を許すこととなった。しかし、それ以降の20人の打者のうち出塁を許したのはわずか2人。残り18人にはしっかりアウトを奪っている。
特に注目すべきは、大谷がスプリッター(Split-finger fastball)を修正した後の対応だ。
ハリソン・ベイダー(Harrison Bader)の犠牲フライの後、大谷は次の8人の打者のうち5人を三振で仕留めている。
さらに驚異的なのは、フィリーズ打線の空振り率だ。
全48スイングのうち、23回も空振り。これは空振り率48%という驚異的な数字であり、メジャーリーグのポストシーズンにおいても際立ったパフォーマンスだ。
5回、シュワーバーを完璧なカーブで仕留める
試合のハイライトの一つは第5回だった。フィリーズは一死一・二塁の得点機を作り出し、打席には上位打線が回る。
ここでまず大谷は、トレイ・ターナー(Trea Turner)をショートライナーに打ち取り、ひとつアウトを積み重ねる。
続く打者は今季56本塁打を記録した長距離砲、カイル・シュワーバー(Kyle Schwarber)。大谷はここで、完璧なカーブボール(Curveball)を投じ、見事に空振り三振に仕留めた。この2アウトは、試合の流れを左右する最大の分岐点となった。
Shohei Ohtani, Wicked 80mph Curveball…and Fist Pump. 💪
— Rob Friedman (@PitchingNinja) October 5, 2025
7th K pic.twitter.com/d1XlETpaM0

ホームラン56本のホームラン王に対して55本打った選手がマウンドに、
しかもメジャーのポストシーズンで見られるとか頭おかしなるで
トータルで見ても圧巻の初登板 – 球数は今季最多の89球
投球回 | 球数 | 被安打 | 奪三振 | 与四球 | 失点 |
---|---|---|---|---|---|
6 | 89 | 5 | 9 | 1 | 3 |
- 奪三振9は堂々たる内容。
- ポストシーズンでの初登板ながら冷静なマネジメント力が光った。
- 球数89球は今季最多。
緊張から覚醒へ ― メンタルの強さも証明
試合後のインタビューで、大谷は次のように語った(通訳を通じて):
「試合前はデータを見たり、いつも通り準備をしながらも、マウンドに立つ自分を想像して少し緊張していました。ただ、実際にマウンドやグラウンドに立ったら、その緊張は消えました。本当に“集中”していました。」
大舞台に立つ者のメンタリティとして、準備力・修正力・集中力の三拍子が揃っていたことを物語る言葉だ。
2度目のUCL手術からわずか1年、大谷が見せた先発復帰の成果
大谷翔平(Shohei Ohtani)は2023年9月に2度目のUCL(内側側副靭帯)再建手術を受けた。
これはいわゆるトミー・ジョン手術と呼ばれるもので、投手生命に大きな影響を与える重手術だ。
そして今年(2025年)、大谷は投手として再びマウンドに戻ってきた。レギュラーシーズンでは、厳重に管理された14試合の先発に登板し、47回を投げて防御率2.87、奪三振62を記録。回復後とは思えない安定したパフォーマンスを見せている。
なお、手術前のパフォーマンスも極めて優秀で、2021年から2023年までの通算防御率は2.84。2022年にはサイ・ヤング賞投票で4位に入るなど、投手としての地位は確立されていた。
手術後でも昨季はDHとしてポストシーズン出場、今季は二刀流で挑戦
術後のリハビリ期間中も、大谷は打者としては出場を続けた。昨年(2024年)のポストシーズンでは、ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)のワールドシリーズ進出に貢献し、指名打者(DH)としてプレーオフデビューを果たしている。
そして迎えた今季のNLDS第1戦、再びDHとしてラインアップに名を連ねた大谷だったが、打席では結果が出なかった。
成績は以下の通り:
- 4打数0安打、4三振(うち見逃し三振3回)
- 四球1
- チャンスの場面(7回・無死一二塁)でも三振に倒れる
この試合ではクリストファー・サンチェス(Cristopher Sánchez)に3打席連続で抑えられ、7回にはマット・ストラム(Matt Strahm)に無死一二塁の好機で三振を喫した。
Matt Strahm FROZE Shohei Ohtani! #NLDS pic.twitter.com/OD0HXHNmaR
— MLB (@MLB) October 5, 2025
大谷翔平の打撃成績(NLDS第1戦)
打席 | 打数 | 安打 | 四球 | 三振 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
5 | 4 | 0 | 1 | 4 | 3回見逃し三振 |
フィリーズが仕掛ける左投手偏重ローテーション
ドジャース主軸の左打者封じに全力、右腕との対戦機会は限定的だ。
今シリーズのフィラデルフィア・フィリーズ(Philadelphia Phillies)は、左腕偏重のローテーションを敷いており、大谷翔平(Shohei Ohtani)およびフレディ・フリーマン(Freddie Freeman)のようなドジャースの中核左打者に対して対策を徹底している。
フィリーズが予定している先発陣:
投手名 | 利き腕 | 備考 |
---|---|---|
クリストファー・サンチェス(Cristopher Sánchez) | 左 | Game 1で好投 |
ヘスス・ルサルド(Jesús Luzardo) | 左 | Game 2予定 |
レンジャー・スアレス(Ranger Suárez) | 左 | Game 3またはGame 4候補 |
加えて、マット・ストラム(Matt Strahm)も高レバレッジで起用される中継ぎ左腕として重要な役割を担っている。
このため、大谷やフリーマンがシリーズを通じて右腕投手と対戦できる機会は2〜3打席程度に限られる可能性が高い。しかも、その右腕が登板する場合も、対戦相手はホアン・デュラン(Jhoan Duran)のようなエリート級である可能性がある。
大谷の“魔法”が発動した試合、勝負を決めたのはヘルナンデスの一発
とはいえ、大谷の“魔法”ともいえる存在感は、こうした状況でも揺るがない。打撃で4打数無安打・4三振という結果に終わったにもかかわらず、マウンドでは勝利投手の権利を得て降板した。
そして試合を決定づけたのは、先ほど守備で失点のきっかけを作ってしまったテオスカー・ヘルナンデス(Teoscar Hernández)だった。彼は7回に逆転の3ランホームランを放ち、試合の流れを一気にドジャース側に引き寄せた。
これは、強力なラインナップを擁するドジャースの“層の厚さ”を象徴する場面だった。
大谷翔平は「唯一の脅威」ではない
経験豊富で層の厚いドジャースがシリーズをリード
今回のドジャースは、大谷翔平が「主役」ではあっても「唯一の脅威」ではないという点が非常に重要だ。
ベテランのフリーマン、中軸で勝負強さを見せるウィル・スミス(Will Smith)、そして爆発力のあるヘルナンデスらが控えており、相手投手にとっては一瞬の油断も許されない打線が構築されている。
ポストシーズンという極限の舞台で、「戦い慣れたチーム(battle-tested)」としてのドジャースの強みが試合終盤で発揮された形だ。
左腕偏重の布陣をどう攻略するか
二刀流・大谷翔平の次なる挑戦と、ドジャース打線の対応力に注目
今シリーズの鍵は、左投手を並べてきたフィリーズ投手陣に対して、ドジャースの左打者たちがどう対応するかにかかっている。大谷にとっても限られた右投手との対戦機会をどう生かすかが重要なテーマとなる。
それでも、マウンド上では安定した投球で試合を作り、チームに勝利の流れをもたらすことができる大谷翔平の存在は唯一無二だ。打撃面の修正とともに、シリーズの行方を左右するカギを握っていることは間違いない。
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