カーショーの引退試合が感動的であったことは、もはや誰もが知る事実だ。
だからこそ本稿では、その感動の余韻を一歩進め、クレイトン・カーショウという投手を歴代の名投手たちと比較しながら、その真のレジェンド性を検証していきたい。
殿堂入りは確実、議論すべきは「偉大さの順位」
数週間のうちに、クレイトン・カーショウ(Clayton Kershaw)のキャリアは幕を閉じる。そして時間が経つにつれ、我々は「この時代にマウンドに足を踏み入れ、いや、野球用語で言えば“toe the slab(マウンドに立つ)”した最も偉大な投手の一人を目撃できた」ことを懐かしく振り返ることになるだろう。
その偉大さをどう評価するにしても、ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)のレジェンドは殿堂入りの基準を容易に超え、5年後の初回投票で90%以上の得票を得て堂々と殿堂入りを果たすだろう。
実際には95%かもしれない。あるいは98%かもしれない。正確な数字はわからないが、限りなく100%に近いはずだと自信を持って言える。彼のキャリアを見てきた人間、そして野球殿堂入りに必要な条件をほんの少しでも理解している人間なら、その敬意が当然であると納得できるはずだ。
多くの場合、偉大な選手が引退するときには、その殿堂入り資格の是非について議論するものだ。
しかしカーショウに関しては、「殿堂入りできるかどうか」ではなく、「史上最も偉大な選手の序列の中で、どの位置に座しているのか」という議論に直結する。
21世紀を代表する投手の「ビッグ3」
WARリーダーボードが示すカーショウの立ち位置
ここから話を始めよう。もし誰かに「21世紀で最も偉大な投手は誰か?」と問われたなら、簡単に、そして明白に答えられるビッグ3が存在する。それがカーショウ、ジャスティン・バーランダー(Justin Verlander)、そしてマックス・シャーザー(Max Scherzer)である。
2000年シーズン以降のWAR(Wins Above Replacement)で並べると、リーダーボードは以下の通りだ。
投手 | WAR |
---|---|
ジャスティン・バーランダー (Justin Verlander) | 82.6 |
クレイトン・カーショウ (Clayton Kershaw) | 77.6 |
マックス・シャーザー (Max Scherzer) | 75.5 |
ザック・グレインキー (Zack Greinke) | 72.4 |
ロイ・ハラデイ (Roy Halladay) | 62.4 |
CC・サバシア (CC Sabathia) | 61.8 |
この後にマーク・バーリー(Mark Buehrle)、コール・ハメルズ(Cole Hamels)、クリス・セール(Chris Sale)といった名前が続く。
正直に言えば、ザック・グレインキーを加えて「ビッグ4」と呼ぶのも妥当かもしれない。しかし、「トップの座を争う議論」にカーショウが必ず含まれることに疑いの余地はない。
カーショウの通算成績が示す圧倒的な安定感
勝利数・奪三振数で2000年代トップクラス
カーショウは2000年代において、通算勝利数で4位、奪三振数でも4位にランクされている。リーグ最多勝を3度、防御率(ERA)を5度、投球回を1度、奪三振を3度、WHIPを4度記録した。また、投手WARでリーグを3度リードしている。
“パワーピッチャー”ではないのに奪三振を量産
技巧と引き出しの多さがもたらした支配力
興味深いのは、上記の奪三振実績にもかかわらず、カーショウはそもそも典型的なパワーピッチャーとは見なされていなかった点だ。もちろん、ナ・リーグで3度、MLB全体でも1度奪三振王となったが、彼はランディ・ジョンソン(Randy Johnson)のような剛速球投手ではなかった。
同じ「ビッグ3」の仲間であるバーランダー(Verlander)やシャーザー(Scherzer)は、典型的なパワーピッチャーとして認識されていたのに対し、カーショウはそうではなかった。それでも彼は打者を翻弄し続け、その結果として奪三振を積み重ねたのだ。
この説明はカーショウを常に見てきたファン以外には不思議に聞こえるかもしれない。しかし我々が知っているのは、彼が「圧倒的な速球」でねじ伏せるというよりも、多彩な方法で打者を打ち負かしていたという事実である。そしてもちろん、必要なときには打者を力で押さえ込むこともできた。それは彼の多彩な武器の一つに過ぎなかった。
歴代最高のサウスポー投手を語る上でカーショウを外せない理由
左腕限定でもトップ5に入る存在
カーショウは左投げである。この「投手の利き腕」という条件を付け加えた場合、歴代で最高の左腕は誰か?――答えを調べるまでもなく、カーショウは間違いなくその最上位に入る。
異なる時代の投手を比較するのは難しい。ポジションプレイヤーであればWAR(Wins Above Replacement)が比較に役立つことが多いが、先発投手の場合は時代ごとの登板間隔や投球回数の違いがあまりに大きい。
たとえばカーショウはシーズンで240投球回を超えたことがなく、最多は232回2/3(MLB全体1位を記録したシーズン)。
一方、1920〜30年代を中心に活躍した殿堂入り投手レフティ・グローブ(Lefty Grove)は、250イニング以上を11回、275イニング以上を5回も投げているが、リーグ最多投球回を記録したことは一度もない。
さらに1960〜80年代に活躍したスティーブ・カールトン(Steve Carlton)は、346回1/3を投げたシーズンすらあり、250イニング以上は12回、290イニング以上も5シーズンにわたって記録している。
WARは累積スタッツであり、シーズンごとに同時代の投手と比較する指標ではあるものの、こうした「投球回数の時代差」を踏まえて考える必要がある。
歴代左腕投手 WARランキング(通算)
投手 | 通算WAR |
---|---|
レフティ・グローブ (Lefty Grove) | 113.2 |
ランディ・ジョンソン (Randy Johnson) | 103.5 |
ウォーレン・スパーン (Warren Spahn) | 92.6 |
エディ・プランク (Eddie Plank) | 88 |
スティーブ・カールトン (Steve Carlton) | 84.1 |
クレイトン・カーショウ (Clayton Kershaw) | 77.6 |
トム・グラビン (Tom Glavine) | 74 |
カール・ハッベル (Carl Hubbell) | 68.8 |
トップ5左腕の中でのカーショウの位置づけ
時代を考慮すれば評価はより高まる
カーショウは18年間にわたって「パワーヒッターが揃う現代野球」と対峙してきた。
こうした背景を踏まえると、WARだけの順位に縛られる必要はなく、グローブ、ジョンソン、スパーン、カールトンに並ぶ「歴代5大左腕」の一人としてカーショウを位置づけることは十分に正当化される。
WARは万能な指標ではないが、複数の観点を総合すればカーショウが史上最高のサウスポーの一人であることに疑いの余地はない。
サンディ・コーファックス(Sandy Koufax)との比較
「短期的な絶頂」と「長期的な安定」を併せ持つカーショウ
左腕の殿堂入り投手の中には、故障やその他の要因で投球回を積み上げられなかったものの、絶頂期のインパクトで評価されている選手もいる。その代表例が、ロサンゼルス・ドジャース(Los Angeles Dodgers)一筋のサンディ・コーファックス(Sandy Koufax)だ。
ただし忘れてはならないのは、コーファックスの偉大さの大部分がわずか5シーズンに凝縮されているという点である。キャリア最初の7年間、コーファックスは54勝53敗、防御率3.94、ERA+ 105、WHIP 1.37、952奪三振/501与四球、投球回947回1/3という成績だった。
その後の5年間で彼は驚異的なギアチェンジを果たし、5年連続で防御率タイトルを獲得、サイ・ヤング賞3回、MVP1回、ワールドシリーズMVP2回を手にした。
一方、クレイトン・カーショウ(Clayton Kershaw)にも7年間の圧倒的な支配期があり、その間にサイ・ヤング賞3回、MVP1回、防御率タイトル5回を獲得している。さらにカーショウはその後も数シーズンにわたり「真に偉大」と言える成績を残した。
つまり、カーショウはコーファックスのような伝説的ピークを持ちながら、長期的な安定性とキャリアの厚みを兼ね備えている点で特筆すべき存在である。
「5年間の全盛期」における支配力は確かにサンディ・コーファックス(Sandy Koufax)が上回っていたかもしれない。だが、通算キャリアの充実度ではクレイトン・カーショウ(Clayton Kershaw)が勝っていると言える。各種レート系スタッツがその事実を裏付けている。
投球腕の区分を外して「歴代最高投手全体」で議論する場合、カーショウは「絶対的トップ層」までは届かないだろう。しかしそのすぐ下に位置することは間違いない。
歴代20位という確固たる地位
JAWS(Jaffe WAR Score system)は、通算WARとピーク時のWARを組み合わせ、さらにデッドボール時代以前のスタッツの歪みを補正した指標である。
このシステムにおいて、カーショウは歴代20位にランクされている。
参考までに、カーショウの上位に位置する投手は以下の通り(順位順)。
順位 | 投手 | 備考 |
---|---|---|
1 | ウォルター・ジョンソン (Walter Johnson) | デッドボール時代の大投手 |
2 | サイ・ヤング (Cy Young) | 通算511勝 |
3 | ロジャー・クレメンス (Roger Clemens) | 7度のサイ・ヤング賞 |
4 | グローバー・アレクサンダー (Grover Alexander) | 通算373勝 |
5 | レフティ・グローブ (Lefty Grove) | 通算WAR左腕トップ |
6 | トム・シーバー (Tom Seaver) | “Tom Terrific” |
7 | キッド・ニコルズ (Kid Nichols) | 19世紀の大投手 |
8 | グレッグ・マダックス (Greg Maddux) | コントロールの神 |
9 | ランディ・ジョンソン (Randy Johnson) | 300勝+通算4875奪三振 |
10 | クリスティ・マシューソン (Christy Mathewson) | 20世紀初頭のスター |
11 | ウォーレン・スパーン (Warren Spahn) | 通算363勝 |
12 | ペドロ・マルティネス (Pedro Martinez) | 全盛期の支配力は歴代屈指 |
13 | ボブ・ギブソン (Bob Gibson) | 1968年の伝説的シーズン |
14 | フィル・ニークロ (Phil Niekro) | ナックルボーラー |
15 | バート・ブライレブン (Bert Blyleven) | 通算3701奪三振 |
16 | スティーブ・カールトン (Steve Carlton) | 左腕の大黒柱 |
17 | エディ・プランク (Eddie Plank) | デッドボール時代の名投手 |
18 | ジャスティン・バーランダー (Justin Verlander) | 現役最高峰 |
19 | ゲイロード・ペリー (Gaylord Perry) | 通算314勝 |
そして20位にカーショウが入る。
MLB通算1万1765人中、わずか0.17%に入る存在
もちろん、どんな指標にも完璧なものはなく、時代ごとの前提条件を考慮すべきだ。ただし、先ほどのようなランキングをざっと見渡したときに、多くの人は「なるほど、概ね妥当だ」と感じるはずだ。多少の異論や入れ替えの余地はあるにしても、クレイトン・カーショウ(Clayton Kershaw)が歴代20位に位置づけられること自体には大きな違和感はない。
もしカーショウより上に置きたい投手が数人いるのなら、それはそれで問題ない。ただし逆に、彼より下に見積もる投手を外すこともできるわけで、総合的にはプラスマイナスゼロとなる。つまり、カーショウを歴代トップ20投手と見なすことに自信を持って良いということだ。
Fangraphsによれば、メジャーリーグの歴史で1イニング以上を投げた投手は11,765人存在する。その中で、カーショウが「トップ20」に位置しているという事実は、すなわち全体の上位0.17%に入る存在だということを意味する。
カーショウは歴代5大左腕の一人であり、歴代20位以内の投手の一人であり、そしてMLBで一度でもマウンドに立った1万1765人の投手の中で、0.17%という極上の領域に属する投手である。
この18年間、我々が目撃してきたのは、まさに最上位の伝説(upper-tier legend)の姿だった。
カーショウの名は、ドジャースの歴史にとどまらず、MLB全体の投手史においても永遠に刻まれるだろう。
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