選手の本当の実力を見極める――それは、バーの一角でもフロントオフィスの会議室でも、日常的に行われている議論だ。そして驚くべきことに、意見の一致を見ることはほとんどない。
しかし、ブルペンに関して言えば、その見極めはさらに困難になる。
リリーフ投手は、判断材料となるサンプルが非常に小さいうえに、登板するのはたいてい試合の命運を左右する場面ばかりだ。つまり、評価しにくいうえに重要性だけは高い。
たとえば今、ヤンキースファンにチームのブルペンについて聞いても、「いい」とは答えないだろう。
というのも、火曜日の試合開始時点で、ヤンキースのブルペンERAは5点台を超えており、直近7日間ではMLB全体でワースト2位の成績だった。
……そりゃあ厳しい。
だが、それがブルペンを評価する「正しい方法」なのだろうか?
「最近どうだった?」という問いは、連敗中のチームを見ているファンにとっては自然な感情の反応だ。
だが、たとえ直近7日間の成績でエンゼルスのブルペンが好調だったとしても、それだけで「エンゼルスの方がヤンキースより2倍優れている」と断定するのは、あまりにも短絡的だ。
過去を見ることには限界がある。
とはいえ、まず認識しておくべきことは、トレードデッドラインを機に、多くのブルペンが大きく姿を変えたという事実だ。
そして、たった7日間のデータでは、どのブルペンが「最強」かを判断するには到底不十分でもある。
そこでここでは、現在MLBで「最も強力なブルペン候補」とされる3チームを取り上げ、それぞれの「上位5人のリリーフ投手」と、今季の通算成績を紹介する。
いずれのチームも、トレードデッドラインで戦力を大幅に補強しており、その顔ぶれを見るだけで特に後半戦に向けての“本気度”が伝わってくる。
ピッチャーの実力を測る上での超重要指標「Stuff+」と「Location+」
投球の物理的特性だけを対象に評価する指標で、以下の要素が含まれます:
- リリースポイント
- 球速
- 垂直と水平方向の変化量(vertical/horizontal movement)
- スピンレート(回転数)
投球の「キレ」や「ヤバさ(nasty)」さ。
つまり打者にとってより攻略しずらいレベルの投球を、こうした物理特性を通じて数値化したものです
カウントや球種に応じて、「どれだけ意図した場所に投げられているか」を評価する指標です。
球速や回転、変化量といった投球の物理特性は一切含まれないのが最大の特徴。
「投球のロケーション」に基づいて純粋な制球力を測ります。
これに加えて打者の傾向や試合の状況、類似したカウントでの過去の投球が成功したか否か、などを踏まえて投球位置による戦術的な有効性も加味されて計算されます。
スコアは「+」系統で表され、100がリーグ平均。100以上=平均より上、100未満=平均以下の制球力を示すことだけは覚えておくと良いでしょう。

それを踏まえて強いとされるブルペンを見てみよう!
1. ニューヨーク・ヤンキース
投手 | ERA | K% | BB% | Stuff+ | Location+ |
---|---|---|---|---|---|
Devin Williams | 5.44 | 29.9% | 10.3% | 114 | 98 |
Luke Weaver | 2.89 | 26.5% | 7.1% | 97 | 97 |
David Bednar | 2.66 | 32.5% | 6.0% | 107 | 108 |
Camilo Doval | 3.12 | 25.1% | 12.3% | 105 | 100 |
Tim Hill | 2.66 | 13.1% | 6.6% | 122 | 97 |
平均 | 3.33 | 25.1% | 8.6% | 109 | 101 |
ヤンキースはトレードで大型補強し、「前年度のクローザー経験者四人+剛速球投手」の布陣が揃った。
しかし明らかに本調子ではないヤンキース初年度のWilliamsのERAが高く、平均値を壊している感は否めない。
ただし球速やコマンドのstatsは例年に比べ特別悪いわけではないのだが、打たれやすい原因として必殺のチェンジアップ(エアベンダー)の投球が今までよりも“遅くて落ちすぎ=被ハードヒット率の悪化”、という分析結果がでている。
Bednarはヤンキース加入後にベストとは言えないスタートを切ったが、少し慣れる時間を与えつつ、カーブのコマンドが戻れば大丈夫だろうと分析した。素晴らしいクローザーになるかもしれないがただホーム球場が小さくなったことで被本塁打が増える傾向にならないかという声も上がっている。
Dovalは逆にホームランを打たれる率が低い球を持っている。(高速カッター)
Tim Hillの数字は、持続性の高さを裏付けるものではないがこのブルペンにおいて全くタイプの違う一人、という面白い存在感を醸し出している。
そしてLuke Weaverは4シームの球威が去年より落ちてきてはいるものの彼の武器であるチェンジアップは非常に優れており、スタッツとしては右打者よりもむしろ左打者を抑えることができている。
このブルペンは、いくつかの欠点を抱えてはいるが、全体としては優れたユニットだ。
総じて“良いブルペン”ではあるが、明確な「最強ブルペン」と呼ぶにはまだまだ課題が残る印象だ。
2. ニューヨーク・メッツ
投手 | ERA | K% | BB% | Stuff+ | Location+ |
---|---|---|---|---|---|
Edwin Díaz | 1.41 | 37.9% | 9.6% | 106 | 93 |
Tyler Rogers | 1.87 | 19.2% | 2.0% | 126 | 104 |
Ryan Helsley | 2.77 | 27.1% | 8.8% | 128 | 94 |
Reed Garrett | 2.56 | 28.0% | 11.6% | 113 | 97 |
Gregory Soto | 3.63 | 27.4% | 10.3% | 113 | 87 |
平均 | 2.39 | 27.7% | 8.3% | 117 | 95 |
メッツは、すでにリーグ屈指のクローザーであるEdiwin Diazを擁しているが、そこにさらにもう一人のトップクローザー、ライアン・ヘルズリー(Ryan Helsley)を加えた。
そして、MLBで唯一無二と言っても過言ではないアンダースローのタイラー・ロジャース(Tyler Rogers)まで獲得した。
投球の物理的特性を評価する指標「Stuff+」のランキングによれば、彼らは今回のトレードデッドラインで、MLB全体でもトップ3に入るリリーフ投手のうち2人を補強したことになる。
ではメッツブルペンに弱点はあるのか?
あるとすれば、それは「制球力」かもしれない。このブルペンのLocation+は95で、これはリリーフ投手の平均と比べてもコマンド(狙ったところに投げる能力)が劣ることを意味する。エドウィン・ディアス(Edwin Díaz)は突如として制球が乱れ荒れることがあり、ヘルズリーも時折ストライクゾーンの外にボールが行きがち。
グレゴリー・ソト(Gregory Soto)は以前のような「典型的な荒れ球左腕」のイメージからは改善されてきたものの、依然として平均的またはそれを下回る与四球率となっている。
しかしもし相手打線が粘り、球数を稼ごうとする場面をメッツは想定したタイラー・ロジャースを投入してくるかもしれない。理由は今年、規定投球回に達したMLBリリーバーの中で最も低い四球率を誇っているのが、彼だからだ。
メッツのブルペンは、タイプの異なる投手を揃えており、多様性に富んでいる。
ポストシーズンまで行った場合も、この「多彩さ」は大きな武器になるだろう。
3. サンディエゴ・パドレス
パドレスは、今回のトレードデッドラインで最もインパクトのある動きを見せたチームの一つだ。
その目玉が、メイソン・ミラー(Mason Miller)の獲得だった。
ではパドレスのブルペンを詳しく見ていこう。
投手 | ERA | K% | BB% | Stuff+ | Location+ |
---|---|---|---|---|---|
Mason Miller | 4.02 | 38.8% | 11.9% | 123 | 91 |
Jeremiah Estrada | 2.61 | 34.9% | 11.9% | 112 | 111 |
Adrian Morejón | 2.13 | 25.8% | 5.1% | 120 | 99 |
Robert Suarez | 3.17 | 25.9% | 6.9% | 112 | 105 |
Jason Adam | 1.82 | 24.7% | 10.6% | 103 | 92 |
平均 | 2.68 | 29.6% | 8.4% | 113 | 100 |
パドレスは100マイル(約161 km/h)以上の速球を最も多く投げるリリーバーであるミラーを獲得したことにより、このブルペンは上で説明したStuff+(球の質を評価する指標)において非常に高評価になるのは当然だ。
実際、この3チーム(ヤンキース・メッツ・パドレス)の中で最も高い奪三振率(K%)を誇り、与四球率(BB%)も2番目に低い。
そして「三振率−四球率(K%−BB%)」は、将来的な投手成績を予測する上で最も信頼できる指標の一つでもある。
では、ミラーに問題はあるのか?
ヤンキースのウィリアムズは、今季明確に三振率を落としているが、ミラーはいまだに対戦打者の約40%を三振に取っている。
しかも、昨年より球速はさらに上がり、フォーシームの変化も改善されている。
それにもかかわらず、彼の今季ERA(防御率)が昨年より悪化している理由は、おそらくシンプルだ。
ERAは予測性の低い指標であり、それ以外の成績は全て良好だ。
強いて課題を挙げるならストライクゾーン外で三振を取ろうとするフォーシームの割合を減らすことかもしれない。
ミラーは今季、ストライクゾーンを“外しすぎて見逃されるボール”を投げる割合を、昨年からほぼ倍増させている。
これらの球は打者にとっては容易に見極められている。
……まあ、と言っても、101マイル(約162 km/h)をバンバン投げてくるわけだが。
ともあれ、すでにリーグ屈指のブルペンだったパドレスにミラーが加わったことで、現在最強のブルペンは?への暫定的な答えは出たのかもしれない。
…しかし、ちょっと待ってほしい。
我々は今、“将来のパフォーマンスを予測するデータ”を見ているつもりでいても、結局は「過去のデータ」に依存している。
選手の“今”の実力を本当に評価したいなら、「次回の登板でどうなるか」を正確に予測していくことが重要となる。
だからこそ様々なスタッツを統合し、最も予測性の高い要素に重みを置いて構成されている「将来予測モデル」を使うことが最も理にかなっているといえるだろう。
この記事で紹介している指標は最も信頼できるMLBデータの一つを提供するFanGraphs。
上述したスタッツは各チームのトップ5リリーバーだけを対象として将来のERAを予測している。つまりトップクラスのブルペン同士を、より公平に比較できるというわけだ。
4. 結果、一番評価が高いブルペンは?
チーム | WAR | K-BB% | 予測ERA |
Mariners | 1.2 | 18.9% | 2.96 |
Mets | 1.3 | 18.9% | 2.98 |
Padres | 1.4 | 20.5% | 3.00 |
Brewers | 1.0 | 16.3% | 3.30 |
Yankees | 1.1 | 16.8% | 3.36 |
意外な結果を楽しむのもまた醍醐味だ。
トップに立ったのは、なんとシアトル・マリナーズ。
彼らにはアンドレス・ムニョス(Andrés Muñoz)やマット・ブラッシュ(Matt Brash)というエリートリリーバーが揃っており、ゲイブ・スピアー(Gabe Speier)やケイレブ・ファーガソン(Caleb Ferguson)といった過小評価されがちな投手も存在感を発揮している。
ただし、これだけが彼らの予測ERAが1位になった理由ではない。
最大の要因は、彼らの本拠地がMLBで最も投手に有利な球場であることだ(Statcast評価)
WAR(Wins Above Replacement)は、特に投手評価において欠点がある指標だが、球場補正を含む点では価値がある。
ゆえに、球場補正も考慮した上で予測WAR(将来の貢献度)を見ると、やはりメッツかパドレスのブルペンが「本当の意味での最強」と言えるかもしれない。
フィリーズ(予測WAR 1.3)やアストロズ(1.2)もこの議論に割って入ってくる余地はあるが。
とはいえ、結局これはあくまでも次の試合までの「楽しい暇つぶし」に過ぎない。
次のゲームで、どのブルペンが相手打線を完璧に抑えるのか、またはブルペンが崩れて勝機を逃すのか。
そのたびに、また議論はゼロから始まるのだ。
いかがでしたでしょうか?
ブルペン補強はどのチームも頭を抱える難しさがある中、大きな補強を仕掛けてきた3チームを中心にまとめてみました。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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